2018年1月7日 記
最近、よく、あちこちで「女子力」という言葉を耳にします。
数ヶ月前のことですが、初めてジェルネイルというのをネイルサロンで施してもらいました。
すっと前から、姪っ子がきれいなネイルアートをしているのをチラ見してたのですが、
身近な知人の控え目だけど美しい桜の花模様をあしらったネイルを見て、ついに決心。
ごく初心者向けの、知人よりさらに控え目なカラーで、チラホラと小さなキラキラもつけてもらいました。
それだけで充分幸せな気分がして、ウキウキと早速、友人たち(女性)に見せびらかしたのですが、
その時、「わぁ〜、女子力UPしたね〜」とのお言葉、、、
そのような表現で評価されたことは初めてでした。
私にとっては、ただのおしゃれが、「女子力」という何かの能力のように言われたことと、
自分が「女子」という表現を用いてコメントされたことに対して少なからず違和感を覚えました。
また、ある宴会でのこと。
鍋物を小鉢に取り分けみんなに配っている20代後半の女性に向かって
男性出席者たちから「女子力あるね〜」というお褒めのお言葉、、、
言われた女性はまんざらでもなさそうでした。
その時、私はというと、
配られた小鉢の中味をありがたく頂き、ただ食べているだけの人だったのですが、
実は、宴会の最初のほうで大盛りのサラダをそれぞれの小皿に小分けして配ったのは、この私なのでした。
でも、その時は誰からも、そのお褒めのことばは聞かれず、、、
え?もしかしたら、男性にとって「女子力」とは、比較的若い女性に対してだけ使う言葉なの?
私のような若くない女性が気をきかして小分けして配っても、彼らは当然のように受取り、
数名が「どうも、どうも」と言っただけでした。
彼らにとっては、私はまるで、母親か妻のように感じられたのか、あるいは、
それが年配の女性に期待されることとして自然に感じられたのか、、、
だから今さら「女子力」という言葉で評価するようなことではないと思われたのか、、、
これらの経験から、「女子力」って一体何なのか? と考えるようになりました。
この語は1998年から数年間連載された安野モヨコ作のエッセイ「美人画報」にて初めて使われたと言われています。
このエッセイが連載されたのが、化粧情報誌『VoCE』であったことからも分かるように、
「女子力」という言葉は「女性が美しくあること」と解釈され、
女性は"美人"であれば男性に愛されるため、女友だちがいなくても仕事が出来ずとも、
ひとえに女子力を高めるべきであるということが主張されています。
その後、この言葉は、雑誌などメディアによって拡がっていき、2009年の新語・流行語大賞にノミネートされています。
女子力とは、辞書や事典には次のように説明してあります。
A. デジタル大辞泉 (小学館)
「女性が自らの生き方を向上させる力。また、女性が自分の存在を示す力。
[補説]平成21年(2009)ごろからの流行語。明確な定義はなく、
女性らしい態度や容姿を重んじること、
女性ならではの感覚・能力を生活や職業に生かすことなど、
さまざまな解釈で用いられる。」
B. 現代用語の基礎知識(自由国民社)
「日本の女性誌のテーマはバブル期以降、「輝く生き方」「自分探し」「自分磨き」「モテること」「愛されること」であり、
バブルがはじけてもその傾向に大きな変化は無い。その女性史文化から生まれたのが「女子力」だ。
いつもきれいでセンスがよく気が利いて、男性にもてるだけでなく女性受けもいい。
結婚も子どもも仕事も趣味もすべて手に入れるためには女子力が必要であるというわけだ。」
C. 広辞苑(最新版:第17版)
この語の記載なし。
どうも、この言葉の解釈は一様ではないようですし、
最新版(2018年1月出版)の広辞苑にも収録されていないということは、
まだ流行語の域を出ておらず、今後、どのような意味合いで定着してゆくか興味深いところですね。
この言葉が使われ始めた当初は、「女子力」とは女性に期待される主に外見の美しさを表していたようですが、
その後、徐々に、内面の有り様とそれからのアウトプットとしての女性の持つ"パワー"に対しても言われるようにもなったと考えられます。
例えば、
2008年にサッカーアジア大会で初優勝した女子サッカーチーム「なでしこジャパン」の澤選手が
メディアにクローズアップされ、料理上手ということから、サッカーだけではなく「女子力が高い」ことも賞賛されたり、
2011年にFIFAワールド杯で初優勝した際に、雑誌の表紙を飾った選手等の指の爪に
ネイルアートが施されていたことより「(外面の)女子力の高さ」が取りあげられたりしました。
しかし、同時に、「女子力」は単に男性にもてるための自分磨きだけではなく、
仕事にも大きなパワーをもたらす効果があるとして捉えられはじめたようで、
澤選手がチームのキャプテンとして「リーダーシップ」と「気配り」でチームをまとめ、
選手たちが「共感力」でチームワーク力を発揮したことも、
女子力の高さゆえでのこととしてメディアにも取りあげられました。
また、ロンドンオリンピックにおける女子選手らの活躍に関して
日本経済新聞社による記事「女子バレー眞鍋監督に学ぶ「女子力」の引き出し方」(注1)に見られるように、
真鍋監督の言う「女子特有の結束力」から引き出される「チームワークによる女子パワー」を
女子力と表現している報道も見られます。
それ以外にも、
「女子力が農業を生まれ変えさせるー「生活者目線」「主婦目線」が活性化のカギに」(注2)に代表されるように、
男性とは異なる女性目線のクリエイティブなパワーとして「女子力」が捉えられるようになりました。
この意味においては、ちょうど英語の"girl power"に似ています。
"girl power"とは、まさに英語の"女子力"ですが、
2002年にOxford English Dictionary Onlineにこの語が扱われるようになりました。
意味は「野心、自己主張、個人主義など、少女や若い女性による自立的態度」であり、
90年代のイギリスの女性アイドルグループ「スパイス・ガールズ」によって提唱されたとのことです。(注3)
朝日新聞デジタルは、「"女子力"という言葉なぜ広まった メディアの使い方は」という記事(2017年1月30日)(注4)において、
このことばがメディア(テレビ番組、女性向け雑誌など)によってどのように扱われてきたかを紹介しています。
朝日新聞自体にもこの言葉が2010年頃から記事の見出しに目立ち始めたそうです。
「美容成分を含む食品、おしゃれな文房具など、女性を意識した商品の記事につくものもあれば、
本格的なカメラが女性に人気、好成績を残す女性スポーツ選手の記事などに、「女性の力」という意味で使うなど様々です。」
では、現在では、この「女子力」という概念は、一般的にどのような意味合いで認識されているのでしょうか。
これについては、朝日新聞社が「女子力って?」というタイトルで、
2016年12月26日~2017年1月24日に実施したアンケート調査結果を公表しています。(注5)
それによれば、「社会で使われている意味合い」として最も多かったのは、「料理や掃除など、家事が得意」34.9%
次に多かったのが、「細やかな気配りができる」28.1%であり、
他の意味合い(自立している、意見をはっきり言える1.6%、人間性や教養を深めるなど、内面を磨いている2.3%)を
大きく引き離しています。
また、女子力が「良いイメージ」と捉える人は、27.6%であり、
「悪いイメージ」と捉える人が51%と圧倒的に多いとの結果でした。
これから見ても分かるように、
「女子力」は一般的には「家事が得意」で「細やかな気配りが出来る」という意味で捉えられており、
共感力やチームワーク力による女子パワーや自立した女子として認識する人は、残念ながら少数派のようです。
そのためか、
現在では、女性向け雑誌をはじめ、この言葉の成立当初の意味合いでの「女子力」をクローズアップした
マナー本や婚活本、それに就活本などが数多く出版されており、
テレビのバラエティ番組には、「女子力向上委員会」、「大人の女子力アップナビ」、「女子力対決」、
「女子力UP イマドキ女子のアウトドア」などなど、「女子力」という冠がついた番組が溢れています。
さらにネット上では、「女子大では女子力が生まれる」などと女子大を推薦するサイトや、
占いの「女子力判断」や「女子力を活かした知識やスキルを売る」というサイトまで存在します。
「女子力」を力説する婚活本は、結婚というゴールを目的にしているのですから、
ターゲットである男性に良い印象を与えるために美容やメイクやファッション、立ち居振る舞いなど、
自分磨きをしたい女性が参考にするのは、まあ分かります。
(外見だけでなく内面的な磨きも大切ですが、、、)
しかし、就活において「女子力」が特化して求められるのはどうでしょうか?
服装やメイク、髪型など以外の身だしなみや言葉づかい、面接の受け答え、エントリーシートの内容など、
男女共通の職業であれば、特に女性だけに求められることではありません。
マナー本の類においても同様です。他人に不愉快な思いをさせないために心がけることは、
何も女性に限ったことではなく、男女共通ではありませんか。
また「気配り」も、ことさら女性だけに期待されるものではなく、男女ともに心がけるべきです。
さらに、女子校や女子大では女子力が養われるって、本当でしょうか?
ある女子中学・高校のウェブサイトの「特色」の項目には、
「一人一人の女子力をアップし、未来に活躍する女性を育てます」と明記してありますが、
その内容を見てみると、「女性が自らの生き方を演出するとき、必ず役にたつ力」として
次の3種を挙げています。
でも、これら全て、女性に限ったことではなく、男女共通の「人間力」ではありませんか?
因みに、私も女子校出身ですが、いわゆる「女子力」を高めるために
女性としてのたしなみや男性受けを意識した内容の教育を特に受けた覚えはありません。
むしろ、当時の男性中心社会においても、女性でも自分の教養や能力を活かして、
誠実で豊かな人間性をもって社会に貢献出来る自立した人間教育を受けたと感じています。
したがって、前述の女子中学・高校がことさら、「女子力」と銘打つのは、
女子学生獲得のためのアピールポイントに過ぎません。
この一般的な意味合いの「女子力」って、日本特有の言葉だと思われます。
友人や学生で外国人らに確認しましたが、
家事や育児を女性だけに期待している国は、今や少数派で、男女が共に協力し合うことであるため、
この意味での「女子力」というのは、彼らにとってはあり得ないコンセプトのようです。
また、これに対応する「男子力」がないことからも、
あたかも男性は、別に求められることはないような印象を受けます。
それは、男性中心である日本社会において、男性の資質がスタンダードであるゆえに
ことさら「男子力」は取りざたされないため、
それに反して女性は男性を補佐する役目を求められてきたゆえの「女子力」ではないでしょうか。
逆に、最近は、家事や育児をしたり気配りが出来たりする男性に対して「女子力があるね」などと
褒め言葉的に使われるようですが、その場合も、
家事や育児や気配りが元来、女性に求められるものであるというジェンダーの前提に立っている感じがします。
これってまさに、性別役割分担というジェンダー意識から発していませんか?
単に、「料理上手ですね」とか「気配りの人ですね」などと言うんじゃいけませんか。
共感力や気配り、結束力も、実は、特に女性だけに期待されることではなく、
それによって、よりよい人間関係を築き、協力して仕事をするなど、
男女共に求められることではありませんか。
こうして考えてみると、
「女子力」ではなく、男女ともに共通する「人間力」という言葉を使ったほうがいいような気がしてきました。
「女子力」に潜むジェンダーに翻弄されることなく、「人間力」を養いたいものです。
注
1. 高島三幸, 女子バレー眞鍋監督に学ぶ「女子力」の引き出し方, Nikkei Style 日経デジタル,日本経済新聞社,2013年5月30日, https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK2201I_S3A520C1000000?page=3, 2018年1月5日閲覧.
2. 新田哲史, 女子力が農業を生まれ変わらせる,東洋経済新報社, 東洋経済, 2014年9月3日, Online, http://toyokeizai.net/articles/-/46808,
2018年1月3日閲覧.
3. BBC NEWS, Girl power goes mainstream, BBC, 2002.1.17, http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/1765706.stm,2017年12月15日閲覧.
4. 朝日新聞社「"女子力"という言葉なぜ広まった メディアの使い方は」朝日新聞デジタル, 2017年1月30日, http://archive.fo/HEuaK (https://www.asahi.com/articles/ASK1V2V61K1VUTIL002.htmlより,2017年12月15日閲覧.)
5. 朝日新聞社, 女子力って?, 朝日新聞デジタル, 2017年1月14日, http://www.asahi.com/opinion/forum/039/
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K (月曜日, 31 8月 2020 22:40)
めちゃくちゃ共感しました。
ありがとうございます。
水本 (木曜日, 10 9月 2020 02:00)
Kさん、
コメントありがとうございました!
共感して下さる方がいらして嬉しいです�