2017年2月7日 記
1月からのTBSの新ドラマ「カルテット」をなんとなく見始めたが、
今週第4回目でストーリーにかなり引き込まれてしまった。
ビオラを弾いている家森諭高(高橋一生)には、実は別れた妻との間に男の子がいて、
その子と一緒にコンサートで演奏を披露した後、妻に連れられて子供が帰っていくシーンなど、
つい、ほろりとしてしまった。
このドラマの脚本は坂元祐二で、
あの大ヒットした「東京ラブストーリー」(1991)は彼の出世作。
「20歳そこそこのヒロインが好きな男の子に『セックスしよう』という台詞には、度肝を抜かれたが、
そのような、衝撃的ではあるが女性から誘う、それもあっけらかんとあくまでも明るく迫る、
という台詞は感動ものでもあった。
(原作の柴門ふみの同名のまんがの中の台詞であったかもしれないけど)
坂元氏の脚本の最近のテレビドラマ「最高の離婚」(2013) は、
第76回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞を受賞したが、
その人間関係とテンポあるストーリー展開や台詞のおもしろさに引き込まれるものがあった。
また、私の長年の主張、「若い世代の女性は、もはや女ことばを話さない」を
実践しているかのような若い女性たちの自然な台詞であったことにも注目した。
この脚本家、時として長台詞で俳優泣かせだろうなと思うところが多々あるが、
長くても自然な台詞まわし(いわゆる俳優くさい誇張した台詞言い回しがない)が実にいい。
私たちって、こういう風に結構、「だらだら」と話しているんだね、と気づかせてくれる。
「夫婦って別れられる家族なんだと思います」
「この人にはわたしがいないと駄目っていうのは、大抵この人がないとわたし駄目、なんですよね。」
など、時々、人生の神髄をさらりと短い台詞で語ってしまうところも、なかなかだ。
このドラマ、第4回目の中で私が注目したあることばがある。
第1バイオリンの松たか子演じる巻真紀(まき・まき)の行方不明の夫のことを、
なんと、仲間は「夫さん」と呼んでいるのだ!
この呼び方、長年私が、
「ご主人」ではなく「夫さん」と呼ぶような社会になって欲しいと願ってきた思いが
実現したと思える感動ものだった。
2010年3月、「日本語ジェンダー学会」の「エッセイ集」に書いた
「改まった場における他人の配偶者の呼びかた」の最後には、次のように願った。
「有名人やマスコミの影響力は大きい。願わくば、同じような疑問を持つ脚本家が、
なにか適切なジェンダーフリーな造語を考案し、
それをドラマの中で人気俳優などが用い普及させてくれないだろうか、などと期待もする。」
この私のエッセイを多忙な坂元氏が読んでくださったとは思えないし、
この「夫さん」という呼び方にこの脚本家がどのような思いを込めているのかは定かではない。
しかし、脚本家の中にもこういう呼び方を実際に使ってくれる人が出現したことは大いに歓迎したい。
願わくば、「奥さん」の代わりに「妻さん」もドラマの中で使っていただきたいと密かに願っているが、
さて、今後、ドラマの中に出てくるだろうか? 注目して行きたい。
以下「カルテット」の第4話の無料配信(2017年2月14日(火)21時59分まで)
http://www.tbs.co.jp/muryou-douga/quartet2017/004.html
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水本光美 (水曜日, 03 8月 2022 20:39)
このエッセーを書いたのはもう2年以上も前のことですが、2017年に「カルテット」が放映されて1年後に同じ脚本家、坂元祐二さんによるドラマ「Anone」の中でも、「夫さん」が使われていました。
広瀬すずが演じるハルカがひょんなことで知り合う中年女性(田中裕子)、林田亜乃音のファーストネーム「亜乃音」がアルファベット書きでこのドラマのタイトルになっているのですが、
亜乃音さんの亡くなった夫のことをハルカは「夫さん」と呼んでいました。
その後、坂元さんが書かれたドラマを見ていないのが残念ですが、
いつの日か、「妻さん」も現れるのではないかと密かに期待しています。